大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1060号 判決

控訴人 国

代理人 中村好春 亀井幸弘 ほか二名

被控訴人 破産者株式会社近畿医学予備校破産管財人延澤信博

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決四枚目表七行目並びに同九枚目表九行目及び一〇行目の各「配当異義」をいずれも「配当異議」に各改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それを引用する。

第三証拠

原審及び当審各訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、それを引用する。

理由

一  請求原因1のうち、(一)ないし(三)の事実及び(四)の(2)の事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば、本件競売事件は、〈1〉滞納者の所有する本件不動産に対する控訴人(所轄行政庁大阪国税局長)による滞納処分(参加差押え)、〈2〉抵当権譲受人の申立てによる本件不動産についての競売開始決定、〈3〉本件不動産に対する控訴人による新たな滞納処分(参加差押え)、〈4〉滞調法に基づく続行決定による競売手続の続行、〈5〉滞納者に対する破産宣告と破産管財人の選任、〈6〉控訴人による交付要求という経過をたどった後、配当期日における本件配当表の作成に至ったものであるところ、本件配当表によると、控訴人への配当額は一五五七万四八五八円(本件配当金)と記載されながら、その右側横欄外に「管財人交付」と記載されており、本件配当金を交付要求者である控訴人に対してではなく、滞納者の破産管財人である被控訴人に対して交付する旨の記載があるところから、控訴人は、右欄外の記載に異議があるとして、配当異議の申出をし、本件訴えを提起したものである。

二  これに対し、原審は、次のような理由により、本件訴えを不適法として却下した。

(一)  配当異議の制度は、配当表に記載された「各債権者の債権又は配当の額について不服のある」債権者又は債務者が、その配当期日に異議を申し出て、その後、異議を述べた者とその相手方との間の訴訟という形で、異議の当否について確定させるというものであるが(民事執行法八九条、九〇条)、控訴人は、配当表に記載されていた控訴人への配当額について異議を申し出ているわけではないから、形式的には、右の要件を満たしていない。

(二)  被控訴人に本件配当金が交付されることにより、控訴人がその全額を受け取れなくなる可能性があるとしても、その原因は、執行裁判所が、本件配当金を債権者である控訴人に交付せず、債権者以外の被控訴人に交付するところにあって、執行裁判所が本件配当表の欄外に「管財人交付」と記載したことにあるわけではない。配当表記載の配当金を実際に誰に交付するかという問題は、執行裁判所の執行処分であって、民事執行法八五条四項によって規定されている配当表の記載事項に当たらない。したがって、前記記載は、執行裁判所のメモ的記載と解するのが相当である。

(三)  控訴人の不服の内容は、執行裁判所が、メモ的記載を行って、将来本件配当金を被控訴人に交付する旨宣言したこと(配当実施命令)に対する不服を述べているにすぎず、右のような手続上の不服については、執行異議の申立てをすることによってその救済を求めることができるし(民事執行法一一条)、また、もし、本件で控訴人が懸念しているような事態が生じた場合には、配当金を交付された者に対して不当利得返還請求を行うなど、別途の方策により解決すべきものである。

三  しかし、以上のような原審の判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1  配当表は、各債権者の債権につき実体上の優先関係に基づいて作成され、配当は配当表に基づいて実施される(民事執行法八四条一項)から、前記のとおりの本件配当表が作成された場合には、控訴人(大阪国税局長)の交付要求を認めないのと同様の結果を生じるものであり、また、特に破産財団が財団債権を弁済するに不足する場合には、破産管財人の報酬が、財団債権である国税その他の公課に優先して弁済を受けることになるため(最高裁第二小法廷昭和四五年一〇月三〇日判決・民集二四巻一一号一六六七頁参照)、配当表に「管財人交付」の記載があるか否かにより、租税債権の満足額が異なることになるものである。したがって、配当表に前記控訴人主張のような欄外の記載があることは、単に本件配当金を実際に誰に交付するかというだけの問題ではなく、控訴人に対する配当を認めるか否か、ないし、少なくとも、その配当額が具体的にいくらになるかについての相違を意味することになり、この場合控訴人は、民事執行法八九条一項にいう「配当の額について不服のある債権者」に該当するものと解するのが相当である。

2  すなわち、本件配当表〈証拠略〉中公課庁大阪国税局の項の右側横直近欄外にある「管財人交付」との記載は、その記載の位置、筆致、態様からみて執行裁判所の単なるメモ的記載があるにすぎないと解すべきものではなく、欄外の記載ではあっても、その実質においては、欄内の記載と相まって「破産管財人に対し一五五七万四八五八円、控訴人に対し〇円」という内容の配当表が作成されたのと同視するほかはない。そうすると、控訴人が、配当の額について不服のある債権者として、配当異議の申出をしたうえ、被控訴人を相手方として、配当異議の訴えを提起することは、適法というべきである。

3  なお、控訴人の不服の内容を、執行裁判所がメモ的記載を行って将来本件配当金を被控訴人に交付する旨宣言したこと(配当実施命令)に対する不服を述べているにすぎないとみて、右のような手続上の不服については、執行異議の申立てをすることによってその救済を求めることができる(民事執行法一一条)、との見解は、弁論の全趣旨から窺われる本件の控訴人の不服の内容、執行異議の法的性質及びその不服申立方法としての実効性等にかんがみ、これを採ることができない。

また、もし本件で控訴人が懸念しているような事態が生じた場合には、配当金を交付された者に対して不当利得返還請求を行うなど別途の方策により解決すべきものである、との見解も、不当利得返還請求権の法的性質、同請求訴訟の困難性及び迂遠性等にかんがみ、採ることができないところである。

四  よって、控訴人の本件訴えを不適法として却下した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、本案の理由の有無につき更に審理をさせるため、本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 仙田富士夫 竹原俊一 渡邊壯)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例